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第5話  

Author: リンフェイ
結城理仁は何事もなかったかのように言った。「会議を続けよう」

 彼に一番近いところに座っているのは従弟で、結城家の二番目の坊ちゃんである結城辰巳だった。

 結城辰巳は近寄ってきて小声で尋ねた。「兄さん、ばあちゃんが話してる内容が聞こえちゃったんだけどさ、兄さん本当に唯花とかいう人と結婚したのか?」

 結城理仁は鋭い視線を彼に向けた。

 結城辰巳は鼻をこすり、姿勢を正して座り直した。これ以上は聞けないと判断したようだった。

 しかし、兄に対してこの上なく同情した。

 彼ら結城家は政略結婚で地位を固める必要は全くないのだが、それにしても兄とその嫁は身分が違いすぎるのだ。ただおばあさんが気に入っているので、内海唯花という女性と結婚させられたのだから、兄が甚だ可哀想だ。

 結城辰巳は再び強い同情心を兄に送ってやった。

 彼自身は長男でなくてよかった。もし長男に生まれていたらそのおばあさんの命の恩人と結婚させられていただろう。

 内海唯花はこの事について何も知らなかった。彼女は新居がどこにあるのかはっきりした後、荷物を持って家に到着した。

 玄関のドアを開けて家に入ると、部屋が非常に広いことに気づいた。彼女の姉の家よりも大きく、内装もとても豪華なものだった。

 荷物を下ろして内海唯花は家の中を見て回った。これはこれからは彼女のものでもあるのだ。

 リビングが二つに部屋が四つ、キッチンと浴室トイレが二つ、ベランダも二箇所あった。そのどれもがとても広々とした空間で、内海唯花はこの家は少なくとも200平方メートル以上あるだろうと見積もった。

 ただ家具は少なかった。リビングに大きなソファとテーブル、それからワインセラー。四つある部屋のうち二つだけにベッドとクローゼットが置いてあり、残り二つの部屋には何もなかった。

 マスタールームはベッドルームとウォーキングクローゼットルーム、書斎、ユニットバスがそれぞれあるのだが、非常に広かった。リビングと張るくらいの広さだ。

 この部屋は結城理仁の部屋だろう。

 内海唯花はもう一つのベッドが置いてある部屋を選んだ。ベランダがあり、日当たり良好でマスタールームのすぐ隣にある。部屋が別々であれば、お互いにプライベートな空間を保つことができるだろう。

 結婚したとはいえ、内海唯花は結城理仁に対して本物の夫婦関係を求めてはいなかった。彼女は自分からは絶対にそうしないと決めていた。

 荷物を部屋に置き、内海唯花はキッチンに行った。

 キッチンにも何もキッチン道具はなくさっぱりとしてきれいだった。両側にあるベランダにも何もなく、空間が大きいせいでとても広々としていた。内海唯花はベランダで植物を育てて、ハンモックチェアを置き、暇な時にその椅子に座って本を読み、花を眺めればとても気持ちが良いだろうと思った。

 どうやら、結城理仁は普段家で食事をしないようだ。

 彼女はこの家に住むのだから、もちろん自分でご飯を作るはずだ。そこで内海唯花はまずはキッチンから手を付けることにして、ネットでキッチン道具一式を購入した。ベランダの花や他の家具については結城理仁が帰ってきてから彼の意見を聞こうと思った。

 なんといってもこれは彼の所有物件で、彼女はただの居候にすぎないのだ。

 キッチン道具を買った後、内海唯花は時間を確認し、早く店へ戻らなければならなかった。

 彼女は鍵と携帯を持って急いで下へおりていった。

 彼女が店に着いた時、ちょうど高校生たちの下校時間だった。

 親友の牧野明凛は心配そうに彼女に尋ねた。「唯花、あなたなにしてたのよ?」

 「姉夫婦が最近私のせいで毎日喧嘩してたから、ちょっと考えて引越しすることにしたのよ」と内海唯花はそう言いながら親友が手を広げて説明を求めるしぐさを見つめた。「だからさっきまで引越ししてたの」

 牧野明凛は親友のあの義兄を思い浮かべ、まるで一言では言い尽くせないといった様子で、耐えきれずため息を吐いた。「男っていっつも『僕が君を養うから』とか言いながら、本当に養う必要が出てきた時に、あれはダメだこれはダメだって言って何かにつけて怒るよね。女は一度結婚しちゃうと家庭のために自分を犠牲にしてさ、しかも色んな誤解までされて本当に不公平よね。やっぱりあなたのお姉さんは仕事を探したほうがいいわよ!私たち女性はいついかなる時でも経済的に自立しないとダメよ。お金さえあればしっかり立つことができるんだから!」

 彼女はそう言いながら眉をひそめて、いくらか疑いの眼差しを向けてきた。「お姉さんがそれを許したの?」

 「私結婚したの」

 「あ、え?結婚?あなた彼氏もいないのに誰と結婚したのよ?」牧野明凛は最初頷いていたが、すぐに驚いて彼女を見つめ、普段より幾分か甲高い声をあげた。

 内海唯花は彼女には隠せないことをわかっていて、正直に事のいきさつを全て白状した。

 牧野明凛は目を大きく開いてしばらくの間内海唯花を見つめた後、手を伸ばして唯花の額を小突いた。「度胸がありまくりすぎじゃあないの?初めて会った人と結婚したですって?本当に住む場所が見つからないなら私の家に住めばいいじゃないの。家には空き部屋がたくさんあるのに。誰かと結婚する必要があるなら、私の従兄を紹介したのに!」
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